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第三話 契約

Penulis: 空蝉ゆあん
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-24 16:16:42

「ここでお待ちください」

職員にそう言われ十分が経った。約束の時間の十五分前に来たのに、ここまで待たされるとは思っていなかった。通された時には二時が回っている。麻美は心の中で終夜に対しての不満を並べていく。

彼女が通されたのは社長室だった。終夜本人が麻美を指名していると追加で書かれていたが、嘘だと思っていた。彼女の知っている社長室とは違い、沢山の賞状が壁にかけられている。一つ一つ確認していくと、終夜がどれほどの人物か教えられているようで、気分が悪い。

功績を持っていたとしても、彼女には何の関係もなかった。全ては紙の上に描かれているだけ。そこから終夜の人物像が分かる訳でもない。

生き苦しい空間で一人ぼっち。終夜は姿を見せる様子もなく、精神的に追い詰められている彼女がいる。ため息を吐きそうになった時、扉が開いた。そこにいたのはモデルのように整った容姿と誰もが振り向いてしまいそうなスタイルを兼ね揃えた終夜の姿があった。簡単に触れてはいけないような独特の雰囲気を持っている。同じ空間にいるだけなのに、彼の放つ重圧が麻美にダイレクトに伝わっていった。

「君が西宝麻美さんだね。私は社長の郷東終夜だ」

「初めまして、よろしくお願いします」

「急な事で驚いただろう」

「……どういう事でしょうか?」

雑談から入ろうと下準備をしていた終夜を拒絶するように、切り込んでいく。目元を緩まし、柔らかい雰囲気を演出していた終夜は麻美の姿に釘付けになっていった。跡継ぎとして下積みを経験していると言っても彼女は世間知らずのお嬢様。そう思っていたのに想像と反対の迫力に驚いていた。外用に作られた表情からは感情が見えない。

全てがまがい物で、彩られた終夜の姿を見つめている麻美は怯む事なく、自分の意見を口にし始める。

「こんなやり方をするなんて、貴方は何様なんですか」

「そんなに怒る事かな?」

「当たり前です!」

感情的になってしまった麻美は彼の言葉に煽られていく。言いたい事が沢山あったのに、こういう時に限って出てこない。麻美は終夜の言葉に揺られないように、自分自身の心を安定へと導こうと必死だった。

相手は冷静、彼女は情緒的。二人の持つ性質は交わる事などない。それを知っているからこそ、手のひらで転がされているようで、悔しい想いが加速していく。ギュッと行き場のない感情を込めるように拳を握ると、スタッと立ち上がった。

「私にはやる事があるのよ、貴方に振り回されるとか嫌だから」

「はっきり言うね」

「何なのよ、本当に……茶化したいのなら他所でして」

「……君は逃げられないよ、私が逃さない」

そう言い切ると彼女を引き止めるようにハラリと机の上に二つの紙を置いていく。

「君のお父さんも了承しているよ、君が断ると晴明さんにも迷惑かかるけど」

「……は?」

「この申し出をしたのは彼の方からだ。それでも断ると言うのかい?」

晴明が全ての事を知っている事実を聞くと、フリーズしたみたいに急停止していく。麻美は虚ろな瞳で二つの紙を手にし、内容を確認していく。一つ目の紙は雇用契約書だ。内容は郷東終夜を支える為、彼の秘書として交わされた契約内容。それだけで麻美の脳はパンク寸前だが、もう一つの内容が彼女の希望を打ち砕いていった。

「……婚約?」

「そう。今日から君は秘書兼婚約者として僕をサポートしてもらう。西宝家、郷東家によって結ばれた契約になる。この意味、理解出来るだろう?」

逃げ切れる可能性は少ないと思っていた麻美にとって、これは避けて通れない現実だった。さっきまでの怒りは水蒸気のように蒸発していき、彼女の中へと舞い戻っていく。二つの契約を否定すると言う事は晴明の判断も拒絶すると言う事だった。

晴明は娘を契約で縛り付け、自分の近くから追い出そうとしている。ずっと背中を見て、考えを学び、娘として育ってきたのに、突きつけられる現実は麻美の心に傷をつけていく。

記された道筋は終夜が握っている。彼は彼女を納得させるように座らせていった。終夜が麻美を見る瞳は反対に優しさと同情を纏っている。彼は全てを受け入れ、麻美へと手を伸ばしていった。

「西宝麻美さん、私の支えになってくれませんか」

形だけのプロポーズ。この手を跳ね除ける事は彼女には出来ない。受け入れるしかない麻美は、彼の手に重ね、無言で受け入れていく事しか出来なかった。

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  • 社長は私を離さない   第三話 契約

    「ここでお待ちください」 職員にそう言われ十分が経った。約束の時間の十五分前に来たのに、ここまで待たされるとは思っていなかった。通された時には二時が回っている。麻美は心の中で終夜に対しての不満を並べていく。 彼女が通されたのは社長室だった。終夜本人が麻美を指名していると追加で書かれていたが、嘘だと思っていた。彼女の知っている社長室とは違い、沢山の賞状が壁にかけられている。一つ一つ確認していくと、終夜がどれほどの人物か教えられているようで、気分が悪い。 功績を持っていたとしても、彼女には何の関係もなかった。全ては紙の上に描かれているだけ。そこから終夜の人物像が分かる訳でもない。 生き苦しい空間で一人ぼっち。終夜は姿を見せる様子もなく、精神的に追い詰められている彼女がいる。ため息を吐きそうになった時、扉が開いた。そこにいたのはモデルのように整った容姿と誰もが振り向いてしまいそうなスタイルを兼ね揃えた終夜の姿があった。簡単に触れてはいけないような独特の雰囲気を持っている。同じ空間にいるだけなのに、彼の放つ重圧が麻美にダイレクトに伝わっていった。 「君が西宝麻美さんだね。私は社長の郷東終夜だ」 「初めまして、よろしくお願いします」 「急な事で驚いただろう」 「……どういう事でしょうか?」 雑談から入ろうと下準備をしていた終夜を拒絶するように、切り込んでいく。目元を緩まし、柔らかい雰囲気を演出していた終夜は麻美の姿に釘付けになっていった。跡継ぎとして下積みを経験していると言っても彼女は世間知らずのお嬢様。そう思っていたのに想像と反対の迫力に驚いていた。外用に作られた表情からは感情が見えない。 全てがまがい物で、彩られた終夜の姿を見つめている麻美は怯む事なく、自分の意見を口にし始める。 「こんなやり方をするなんて、貴方は何様なんですか」 「そんなに怒る事かな?」 「当たり前です!」 感情的になってしまった麻美は彼の言葉に煽られていく。言いたい事が沢山あったのに、こういう時に限って出てこない。麻美は終夜の言葉に揺られないように、自分自身の心を安定へと導こうと必死だった。 相手は冷静、彼女は情緒的。二人の持つ性質は交わる事などない。それを知っているからこそ、手のひらで転がされているようで、悔しい想いが加速していく。ギ

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